EU包装・包装廃棄物規則:ヘルスケアへの影響

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MDRに続く新たな課題 

医療機器規制(MDR)が医療機器指令(MDD)に取って代わったとき、それは医療機器業界が過去数十年に直面したなかでも最大規模の規制上の混乱が生じました。公式には、2021年5月の実施からわずか4年しか経っていませんが、その規模と影響は今日でも業界全体で波及し続けています。ようやく少し落ち着き始めたかと思えば、またも抜本的な法改正が迫っています。今回はパッケージ廃棄物に焦点を当てたものです。

多くの議論を経て、新しい包装・包装廃棄物規則(EU)2025/40(PPWR)が2024年後半にようやく採択され、2026年8月から適用されます。これは、EU市場に投入されるほぼすべてのパッケージについて、あらゆる段階、あらゆる業界でパッケージ廃棄物を削減することを目的とし、リサイクル性、リサイクル材料含有率、および廃棄物削減に関する厳しい要件が定められています。医療、製薬、診断企業もこの変化の影響を完全に免れるわけではなく、多くの企業はパッケージング戦略の見直しを始める必要があります。

MDRが施行された直後に、また別の大きなコンプライアンスの課題が迫る中、これはヘルスケア・パッケージングにとってどのような意味があるのでしょうか? また、PPWRについて知っておくべきことは何でしょうか? PPWRはほぼすべてのパッケージングに適用されますが、ヘルスケア分野については、その特殊な機能を考慮し、対象除外や要件の適用延期が定められています。医療、製薬、診断セクターのステークホルダーは、自由度がある規定と、遵守しなければならない規定を理解することが非常に重要です。

リサイクル性

PPWRの中核となる目標はリサイクル性の達成です。理解すべき2つの重要な期限があります。まず2030年までに、市場に投入されるすべてのパッケージをリサイクルを前提として設計しなければなりません。第二に、2035年までに、パッケージは、大規模にリサイクルされなければならず、現実のインフラによって収集、分別、処理が行われるようになります。この段階的なスケジュールは、EU全域で、廃棄物の量だけでなく、その多様な種類にも対応できる、新しく大規模なリサイクルシステムの拡張が必要であることを反映しています。

落とし穴は、リサイクルを前提とする設計に関する共通の定義がないことです。業界では、共通の規則に整合する必要があることが認識されています。そのため、リサイクル可能な包装設計(Design for Recyclability:DfR)基準が策定され、2028年までに実施される予定となっています。

この法律には、付属書IIとして、リサイクル性能基準も盛り込まれています。2030年までに、グレードA、B、Cのパッケージ(重量の70%以上がリサイクル可能)のみが使用可能となります。グレードDおよびEはリサイクル可能とはみなされず、禁止されます。この基準は長期的にさらに引き上げられ、2038年までにグレードCは廃止され、リサイクル可能な材料が80%を超えるもののみが使用可能となります。 

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ヘルスケア・パッケージングについては、医療機器、体外診断用デバイス、医薬品、および特定の高度に敏感な食品(乳児用調製粉乳、医療用食品など)のパッケージを含む、「接触に敏感な包装」については、規制の施行が延期されています。これらの用途は、より高い安全性および無菌性要件があることを考慮し、2035年の見直しまで、2030年に予定されているリサイクル性に関する義務の対象から除外されています。

実際には、これによりヘルスケア分野の製造業者は、患者の安全性を損なうことなく、パッケージング材料の革新にさらに時間をかけることができるようになります。それにもかかわらず、先を見据えた企業は、将来を予測し、リサイクル可能なソリューションをすでに模索しています。 

業界にとってのリサイクル性の重要ポイント

  • EU市場に投入される「接触に敏感な包装」を除くすべてのパッケージは、リサイクル可能な包装設計(DfR)基準に従って、2030年までにリサイクル可能にする必要があります。  
  • DfR基準は2028年までに策定予定。 
  • 2035年までに、パッケージは大規模にリサイクル(つまり、現実のインフラで収集、分別、処理)されなければなりません。 
  • 接触に敏感なパッケージの免除は、2035年までに見直されます。

PCR含有率

循環型経済を促進するため、PPWRは、パッケージのプラスチック部分に、消費後にリサイクルされた材料(PCR)を一定割合以上使用することを義務づけています。これらの目標は、2030年までに達成する必要があり、2040年までに達成すべき割合の目標も設定されています。要件はパッケージングのタイプによって異なり、PPWRの第7条と付属書Iには、正確な目標とカテゴリーが記載されています。これをサポートするため、同法は、リサイクル含有量を測定するための統一された方法の必要性を指摘し、化学的リサイクル含有量に関するマスバランスアプローチについて一定の明確化を図っています。

重要なことは、ヘルスケアおよびその他の接触に敏感な用途については、規定の適用が免除されることです。繰り返しになりますが、安全性と製品の完全性は、PCRの使用よりも優先されており、当面は免除措置が無期限に継続されます。

業界にとってのPCRの重要ポイント 

  • PCRの義務化目標は2030年から適用され、2040年までに段階的に強化されます。
  • 「接触に敏感な」プラスチックは免除されます。

エコ・モジュレーション方式のEPR

拡大生産者責任(Extended Producer Responsibility:EPR)とは、最終的な包装製品を市場に投入する企業が支払う金銭的負担のことです。目標は、この資金を使用して、パッケージの回収、分別、リサイクルにかかる純費用を賄うことで、紙、ガラス、アルミニウム、プラスチックなど、あらゆるタイプのパッケージング材料に適用されます。エコ・モジュレーションとは、リサイクル性能に応じて費用を減額できる仕組みのことです。本質的に、リサイクルが困難なパッケージは費用が高くなりますが、リサイクルが容易なパッケージ、PCRを含むパッケージ、または再利用可能なパッケージは、費用が安くなる可能性があります。

2025年現在、EU加盟国はエコ・モジュレーション方式のEPR制度を導入しなければなりません。また、2030年までに、その費用はリサイクル性グレードに対応する必要があります。ここでいくつかの点に留意することが重要です。第一に、この法律は、加盟国がこの要件をどのように解釈すべきかについての指針を提供していないため、各国がこの費用の配分方法を自由に決定することができ、その結果、統一性が失われています。この問題については対応が進められていますが、多国籍企業は複雑な報告要件に備える必要があります。

第二に、ヘルスケア・パッケージングも例外ではありません。いずれにしても費用は支払わなければならないため、リサイクル可能な材料またはPCRの使用について猶予や免除がある場合でも、経済的な影響を最小限に抑えるために、可能であればこれらの材料を検討することには、財務上のメリットがあります。

また、EPRはプラスチック税とは異なります。プラスチック税は、その名称が示すとおり、プラスチック・パッケージにのみ適用されるもので、英国などの特定のプラスチック税を採用しているそれぞれの国に対して支払われる追加の税金です。

業界にとってのEPRの重要ポイント 

  • 生産者は、市場に投入するパッケージに応じて費用を支払わなければなりません。 
  • 負担費用はエコ・モジュレーション方式で算出され、リサイクルが難しいパッケージほど費用は高くなります。
  • ヘルスケア・パッケージングに免除は適用されません。

最小化

過剰または不要な包装を排除することにより、パッケージ廃棄物を発生の段階で防ぐことに重点が置かれています。したがって、この法律は、2030年までに重量および容積に基づく最小化措置を遵守するための要件を導入しています。これには、2030年までに空間容積率を50%以下に制限することが含まれます。実際には、これにより、パッケージ設計者は、過度に厚い材料、または目的を果たさない余分な層を排除せざるを得なくなります。これは、ヘルスケア業界がすでに比較的良い成果を上げている分野の一つです。パッケージは消費者にとって魅力的であるよりも機能的であることが重要です。例えば、容量を実際よりも多く見せるための底上げなどの設計上のトリックは一般的ではありません。しかし、改善の余地は確かにあります。業界は、より軽量なパッケージ、デッドスペースの排除、適切なサイズのパッケージの採用などを検討することができます。明らかに、パッケージの小型化は、最小化要件を満たすだけでなく、材料の節約にもつながり、排出量の削減にも波及効果をもたらします。

業界にとっての最小化の重要ポイント 

  • EU加盟国は、2030年までに1人当たりのパッケージ廃棄物の量を5%、2035年までに10%、2040年までに15%削減しなければなりません(2018年水準比) 
  • 2030年までに空間容積率を50%以下に制限。 
  • ヘルスケア業界は、軽量の材料の使用やパッケージサイズの最適化により、過剰なパッケージを最小限に抑えることができます。

再利用

単回使用に対処するため、PPWRは特定の形態のパッケージについて、再利用および詰め替えの目標を導入しています。ヘルスケア分野では、健康と安全上の理由から、特定のパッケージングは再利用できません。その点は認識されており、ヘルスケア・パッケージングについては再利用目標が設定されていません。しかし、輸送と物流のサプライ・チェーンの観点からは、依然としてこの再利用要件を検討する価値があります。

単回使用の輸送箱およびパレットを、耐久性のある再利用可能なシステムに置き換える要件は設けられています。2030年までに、EU圏内で顧客に出荷される輸送パッケージの40%が再利用可能である必要があります。一方、社内物流については100%再利用可能でなければなりません。ただし、食品と接触する軟質パッケージ、段ボール箱、危険物の輸送など、一部の例外があります。この規制はすべてのパッケージに適用されるため、物流の役割を見直すことが重要です。

業界にとっての再利用の重要ポイント 

  • 再利用および詰め替えの目標は、ヘルスケア・パッケージには適用されません。 
  • 企業は、サプライ・チェーンの輸送と物流の部分について、この要件を検討する必要があります。
  • 段ボールパッケージはすべての再利用目標から除外されるため、これらの措置は適用されません。

PFAS規制

この規制は、2026年8月から、食品と接触するパッケージに意図的にPFASを添加することを禁じるものです。PFASの物理的特性、特にその残留性、および健康への影響が特定されていることを踏まえ、規制対象として指定されています。PFASは、しばしば「永遠の化学物質」と呼ばれる、環境および人間の健康に害を及ぼす物質です。この規制を遵守するため、食品パッケージには、以下の濃度を上回るPFASを含んではなりません。

  • 個別のPFASごとに25ppb 
  • 個別のPFASの合計値で250ppb 
  • すべてのPFASの指標として、総有機フッ素で50ppm 

PFASは食品に触れるパッケージを中心に議論されていますが、ヘルスケア関連企業もPFASフリー化を進めています。これは、PPWRの下で発効する最初の期限の一つです。また、懸念物質に関する第5条では、従来の重金属の制限値を維持するとともに、委員会が今後、パッケージに含まれるその他の懸念物質を監視する権限を与えています。

業界にとってのPFASの重要ポイント 

  • PPWRの下で発効する最初の期限の一つです。 
  • 2026年8月以降、上記の食品に触れるパッケージへのPFASの意図的な添加が禁止されます。
  • ヘルスケア関連の一部の製造業者は、PFASが意図的に添加されていないものへの切り替えを進めています。

ラベルおよび表示

PPWRは統一された表示要件も導入しています。その目的は、人々が廃棄物を正しく分別しやすくすること、そして誤解を招く環境に関する表示を取り締まることです。

2028年以降、すべてのパッケージには、その材料を表示するとともに、パッケージのどの部分をどのストリームでリサイクルできるかを明確に表示する必要があります。EU委員会は、パッケージだけでなく、対応するごみ箱にも表示される一連の標準化されたピクトグラムを開発しています。

さらに、特定の懸念物質を含むパッケージには、2030年までに透かしやRFIDタグなどのデジタル・マーカーが義務づけられます。これらのマーカーは、廃棄物処理業者が問題のある材料を識別し、安全に処理できるようにするためのものです。

ヘルスケア・パッケージングについては、これらの表示要件が適用されますが、既存の規制の表示要件によりスペースが限られている場合は、適用が免除されます。

第12条は、消費者が誤解することを避けるため、マーケティング上の主張に対するパッケージング・ラベルのガイドラインを定めています。これは、グリーン・ウォッシングに対する懸念の高まりを受けて、曖昧で根拠のない表示を規制することを目的としています。「環境に優しい」のような用語は、より厳格な審査の対象となり、生分解性および堆肥化性の意味に関する定義も明確に定められています。いかなる表示も、具体的かつ正確であり、証拠によって裏付けられている必要があります。

業界にとってのラベルと表示の重要ポイント 

  • 2028年以降、すべてのパッケージに統一されたラベルを貼付しなければならず、ピクトグラムも標準化されます。  
  • ヘルスケア・パッケージングも規制対象ですが、スペースが限られている場合は例外が認められます。 
  • マーケティング上の表示に関しては、パッケージ全体に関するものか、またはそのコンポーネントのみに関するものかを明記するという、より厳格な規則が定められています。   

まとめ

要約すると、PPWRは、EU全域におけるパッケージングの設計、表示、管理の方法に大きな変化をもたらします。特に安全性と無菌性が最優先されるヘルスケア関連企業にとっては、いくつかの課題が生じる可能性があります。これらの複雑さを考慮し、特定の免除措置と期限の猶予が設けられてはいますが、全体的な方向性としては、ヘルスケア分野も含め、未来のパッケージはより持続可能で循環型になっていくことは明らかです。

今こそ準備をする時です。リサイクル性とPCR含有率に関する猶予期間は、新しい材料を探究し、パッケージの形態を見直し、将来を見据えたパッケージング・システムを検討するための戦略的な機会と捉えるべきです。MDRで学んだように、早期に対応する企業は、コンプライアンス義務を果たすだけでなく、コストを削減し、持続可能なヘルスケアの分野で主導的な役割を果たす上で、より有利な立場に立つことができます。

来週は、よりよい準備のために実行できる具体的なステップに関するクイックガイドを掲載しますので、ご期待ください。 

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